初期研修医をどう指導するか

私は現在1000床の総合病院で循環器内科専門医として勤務している.われわれの科には,初期研修医またはローテートしてくる卒後3〜5年目の後期研修医に何を教えるかというコンセンサスはできていない.将来循環器内科以外の内科を目指す研修医,また内科を専攻しない研修医たちに対し,何を習得目標にすればよいのだろうか?心臓カテーテル検査や血管拡張術をするより,最低限の知識として,患者の病歴や簡単な身体所見がとれ,将来もみるであろう心電図・胸部]線の適応と限界を知ったほうが,ずっと有用ではないだろうか.

各専門科の医師たちは,将来その領域を専攻しない研修医たちをどのように指導するか,特に何を研修項目の習得目標とすべきかについて,論じる必要があると考える.確立された初期研修が各専門科で施行できれば,彼らが将来一つの専門を持ったときに,包括的な医療が可能となるのではないだろうか.

私がこのように考えるに至った経験を参考までに紹介したい.私が循環器内科標榜の大学病院で研修を受けていた2年目の秋に,発熱と吐下血を主訴とし,胸部]線に多発性の淡い腫瘍陰影がみられ,緊急の内視鏡でBorrmannIII型胃癌とレポートされた60代の女性を受け持った.手術不能と判断,輸血中心の対症療法を行ったが,不思議なことに患者は1カ月後には見違えるばかりに回復した.検査結果から,肺の陰影はマイコプラズマ肺炎であったことが,また胃癌も良性の胃潰瘍であったことが判明した.その後.消化器内科にローテート中に「急性胃粘膜病変は,不慣れな医師が胃透視や胃カメラをすると胃癌と間違って手術されてしまうことがある」ことを聞き,日から鱗が落ちた.消化器内科医にとって当然のことが,消化器を専門としない私にはわからなかったのである.

以後,各専門内科のローテートで似たような発見は多数あった.例えば,「狭心症は心電図ではなく病歴で診断する」,「多発性筋灸でみられる近位筋の筋力低下は握力測定で判定できない」,「代謝性の意識障害例では内科的検索が緊急に必要である」,「GOTとCKが高値のときは肝炎だけでなく,甲状腺機能低下症を考える」などである.

私が内科をローテートしたときと比べて,現在は習得すべき知識や技術が膨大で,各専門医が要求することを研修中に修得するのは到底不可能である.また研修医自身が,特殊検査を初期研修の]つの到達目標にしていることも多い.しかし,私が経験したように,胃カメラで胃癌と胃潰瘍を盤別できるより,基礎的な医学現象を知ることを初期研修の到達目標とすべきであると思う.